株式会社NOMAL
ある日突然、友人が野球チームのオーナーになる
ぼくの友人は社長をやっている。
小学校からの同級生で、大学時代もよく遊んでいた。
大学生活が終わり、僕は地元である青森に帰り彼は東京に残った。
それでも年に2回以上は必ず会っていたので、かれこれ20年来の友人と言える。
そんな彼から、ある日突然「野球チームのオーナーやるわ」と連絡があった。
東京で社長をやっていることは聞いていたが、正直どんな会社なのかも知らず、そのうえ野球チームのオーナーになると言い出した。
悪い大人に騙されてるんじゃないかと不安になった僕は、話を聞くために友人の会社を訪ねてみることにした。
もし上手い話に乗せられて騙されてるようならぶん殴ってでも目を覚ましてやる、それが20年来の友人として僕にできることだ。
東京都中野区、東中野駅。
駅前の小さな商店街をぬけた所に友人の働くオフィスがあった。
「株式会社NOMAL」
以前から気になっていたのだが、ノーマルのスペルって「NORMAL」だよな。
“R”が足りてない。
まさかモーニング娘。の「。」を当時ASAYANで司会だったナイナイの矢部浩之が「。は要ります!」と答えてしまったから「。」が付いた、的なエピソードがあるのだろうか。あとで聞いてみよう。
暮らしをアートに
オフィスに入ると女性に「松本は上の階にいます」と案内された。
そこで階段の壁に描かれた絵が目に入る。
後日ホームページで調べてみると、オフィスの壁にアートを描く「WASABI WORKING WITH ART」の他にも、アーティストの描いた絵やアートな雑貨を通販で取り扱う「WASABI」という事業もやっていた。
どうやら、日本でもアートをもっとカジュアルに楽しむ文化を作りたいというビジョンでやっているらしい。
新しい文化を根付かせようとしてるなんて、なにそれすごくカッコイイ。
改めて階段に描かれたアートを眺めてみたが、やっぱり僕にはよくわからなかった。
よく分からなかったと言えば、あれは中学3年生の冬。
2月生まれの僕が松本からもらった誕生日プレゼントは「灯油の給油ポンプ」だった。
壁に飾ったらオシャレになるんじゃない?なんて言うもんだから試しに飾ってはみたものの、給油ポンプはどこまでいっても給油ポンプなわけで。
でもひょっとしたら、あれは松本なりの“アートな贈り物”だったのかもしれない。
平山さんと談笑しながらそんなことを考えていると、LINEの通知が1件。
「早く屋上に来い」
そうだった、松本が野球チームのオーナーになるとか言うから、騙されてるんじゃないかと心配で東京まで来たんだった。
談笑してるバヤイじゃない、急いで屋上へと向かう。てか屋上あるの?
NOMALとは
ふと、ここを訪ねた理由を思い出して恥ずかしくなった。
振り上げるはずだった拳は、固い握手へと変わっていた。
一緒になって馬鹿やったあいつが父親のあとを継いではいないけど一人前の社長さんになっていた。
夕暮れも相まって、なんだか眩しく見えた。
東京にもあったんだ、こんなきれいな夕陽が。
言うほどきれいでもなかったが、聞き覚えのあるフレーズを思い出した。
なにかと縛りが多く生きづらい現代社会。
制限だらけの世の中で、その制限を取っ払い可能性を感じながら生きていこうぜ、というさまに、嫉妬さえ覚えるくらいに格好良いなと思えた。
帰りには2人で見送りに来てくれた。
またいつか、と2人は言った。
もう来ることもないだろうなと思いつつ、そのうちね、とだけ返事をした。
まさか、そう遠くない未来にNOMALで働くなんて思いもせずに。
おしまい
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