リーグ2連覇/巣立ちと別れ〜あの頃のぼくらに自信なんてなかった〜
10月26日。堺シュライクスは2年連続のリーグ優勝を果たした。
試合終了とともにマウンドへ駆け寄る選手たち。水をぶちまけ、歓喜の瞬間に酔いしれる。大西監督が高々と3回宙に舞い、順番に選手たちの胴上げが始まった。
自身の胴上げが終わり、選手たちのはしゃぐ姿を遠巻きに見守る大西監督は、すごく柔らかい表情をしている。ただ、その横顔はどこか寂しそうにも見えた。
前日の練習帰り、車内で大西監督が言っていたことを思い出す。
「球団立ち上げから一緒にやってきた5人もなぁ。明日でいなくなるんやなぁ…」
そう、今日は優勝決定という素晴らしい日であると同時に、リーグの最終戦でもあった。それはつまり、今日を最後にチームを去る選手がいるということ。
堺シュライクスでは、今シーズンをもって30名中20名の選手が退団する。今回の記事では、退団する選手たちに焦点を当てながら優勝当日の様子を振り返ってみた。
目次
プレイバック2021
10月25日、朝7時。明日の試合に勝ったら優勝という状況で大阪梅田にやってきた。
朝から降り続いた雨の影響で、予定されていた試合が中止になり、通常の練習日に。通常とはいえ、このチームでの最後の練習だ。せっかくなので見に行こうと、練習場へと向かうことにした。
しかしまぁその練習場が遠い。夜行バスで降り立った梅田からは、電車とバスを乗り継いで1時間30分ほどかかるそうで。東京駅に着いた途端に「今すぐ高尾山に向かって」と告げられるようなものだ。
南海電鉄に揺られながら、ふと「今年シュライクスの記事何本書いたっけ?」と振り返ってみた。あれ、4本しか書いてない。2020年は10本書いてたのに。
一応弁解しておくが、サボっていたわけじゃない。これも全てコロナの影響だ。
毎年恒例だった1月の決起会は自粛し、2月のキャンプイン取材も自粛。新チームが始動する大事な時期を書き残せなかったのは痛い。
開幕戦では初めての実況生中継に挑戦し、試合には負けたけどあれはとても良い経験をしたなと思い出す。
その後もコロナは収まらず、夏に予定されていたイベント試合も軒並み中止。なんか有名な格闘家の方が始球式をやるとか言ってた気がする。
なんとか8月のバトスタデーは開催できたが、その直後、いよいよチームからコロナの陽性判定者が出てしまい、約1ヶ月間の活動休止を余儀なくされていた。
その後は9月中旬から試合が再開し、ダブルヘッダーで半ば無理やり試合を消化していたら、いつの間にかシュライクスにマジックが点灯していた。
もちろん当の選手たちにとっては「いつの間にか」なんてことはないのだけど、本当にあっという間に2021年シーズンが終わってしまったように感じた。
ちなみに今年は48試合が行われたのだけど、昨年はそもそも開幕自体が6月だったこともあり27試合しか行われていなかった。うへぇ〜。
無事是名馬(ぶじこれめいば)
ガラガラの電車とバスを乗り継ぎ、ようやく練習場に到着した。たぶんここ、普通は車で行くんだろうな。
練習場に着くと、投手陣が談笑しながらストレッチをしていた。雨のせいで投げれる場所もできることも限られているから、今日は軽めの調整くらいなのだろう。
投手陣の裏ボス(と勝手に思ってる)久保くんとは、ほとんど話したことがなかった。数々の独立リーグを渡り歩いてきた彼も、今年で引退するそうだ。
「苦しかったけど楽しかった。さすがにもう26歳なんで、夢見るのはやめて働きます。これからは競馬で夢を見ます。」
このあとしばらく菊花賞のタイトルホルダーについて語ったが、競馬の話をしにきたわけじゃない。ただ僕も競馬が好きなので、久保くんには「無事是名馬(ぶじこれめいば)」という言葉を送ります。本当の強さとは能力の高さではなく、ケガをしないで無事に走り続けることだよ、という意味だ。この先の人生、無事是名馬たれ!
気を取り直して、キャプテンの山田くんに話を聞いた。
ーーこの1年、キャプテンとしてどうだった?
「正直、めちゃくちゃしんどかったです。それぞれ目標が違うので、チームとしての意識をまとめるのに苦労しました。」
個性が強いメンバーが揃った、という話は大西監督から聞いていた。個人の能力は昨年より高いけど、ちょっと癖が強いやつらが多いなと。
そういう選手をまとめるのは、監督ではなくキャプテンの役目だ。自身もNPBを目指しつつ、まわりの選手を見ながらチームとして高い意識を保たなければならない。
監督やコーチからは「おまえがしっかりせんかい」とか言われただろう。まるで中間管理職のような板挟みにあうのはしんどかっただろうなと容易に想像がつく。
ただ、キャッチャーというポジションもあってか、山田くんの声がけにはチームを締めるモノがあった。ちなみに僕は山田くん推しだから、めちゃ贔屓目に見ている。すごく良いキャプテンだったと思います。まだ明日があるけど一旦言わせてください、お疲れさまっした!!
次は誰に話を聞こうかな〜と見渡していると、いつも目立つアイツがいない。ちょんまげ姿が見当たらない。
「あれ、寿希也は?」
じゅきならあそこですよ、と指差す方を見ると、ちょんまげとか奇抜な髪型ではないノーマル寿希也がそこに居た。
「もう就職なんで。オシャレは卒業して現実に戻ります。」
これはあれだ、インスタでよく見る、悪そうなツレとのBBQ写真ばっかりアップしてた友人が、結婚して子ども産まれた途端に近況報告がてら子供の成長記録載せてるあの感じだ。
とまぁそれくらいわかりやすく次のフェーズに向けて切り替えていた。
寿希也はこの1年、大橋兄さんからセカンドのポジションを奪うことができず、出場の機会があまりなかった。それに関しては正直に「キツかった」と言っていたが、どうやら後悔はないようだ。
「ここまで続けてきたので、さすがに現実が見えました。でも、野球は変わらず好きなので、退団してもクラブチームで続けるつもりです!」
眩しいなぁ!そうだよ、好きなら続けたほうがいい。たぶんこれから先の野球は、また違った楽しさが見えてくるはずだから。就職先も決まっているそうで、寿希也の未来はきっと明るい。
今度は、寿希也とポジション争いをした大橋兄さんに話を聞いてみた。
大橋はもともと、シュライクスに来る前から海外に挑戦したいと言い続けていた。しかし、コロナによってタイミングを逃し続けて今に至る。ただ、26歳になっても自分自身の成長を実感しているようで、シュライクスを退団した後も現役で続けていくらしい。
「海外で挑戦する夢は諦めたくないです。コロナで断念するのは、なんかダサいっすからね!」
どいつもこいつも眩しいな!そして、どいつもこいつも辞めていくな!
冒頭でも書いたが、堺シュライクスの選手は明日を期に20名が退団する。その20名の中には、1年目から続けてきた選手たちも含まれていた。
プレイバック2019
行きは電車とバスを乗り継いでやって来たが、帰りは大西さんに車で送ってもらえることになった。
球団創設からなので、大西さんとはかれこれ3年の付き合いになるが、こうして2人きりで話をすることは今までなかった気がする。
せっかくの機会だと思って普段は聞けないようなことを聞いてみたら、けっこう深いところまで話をしてくれた。
ーー正直、もっと一緒にやりたかった選手はいますか?
「それはもちろん全員よ。ただ、やっぱり1年目から一緒にやってきた選手は特別思い入れが強いかな。」
1年目からやってきた選手というのは、平岡楓、佐藤将悟、吉田亘輝、関口聡、岸本敦貴の5人だ。シュライクスでは野手を大西さん、投手を藤江さんが主に見ている。それもあってか、特に野手の平岡&佐藤への思い入れは強そうで、彼らとの印象深いエピソードを語ってくれた。
かえちゃん(平岡)は当初、引っ込み思案で恥ずかしがり屋、どこに行くにも先輩の後ろに隠れて歩くような選手だった。
初めての練習のとき、大西監督が直接指導するためにスイングを見ていたところ、「恥ずかしいのであんまり見ないでください」と言われたことを笑いながら教えてくれた。
「どないしたらええねん!って思ったのが最初やったな。何を言っても響かん子やったし。」
今度はしょうご(佐藤)。
シュライクスは初めてのオープン戦のとき、試合に出たい選手を挙手制で決めた。ほぼ全員が手を挙げるなか、唯一しょうごだけが手を挙げなかった。
理由を聞くと、「僕は下手くそで今まであまり試合に出たことがないので。自信がないんです。」と答えたそうだ。
「2人ともそういうスタートやったから、ホンマ成長したなって思うわ。かえちゃんも堂々とプレーするようになったし、しょうごも今年は3割超えてホームラン2本打って。」
他にも「藤江を一番最初にキレさせたのは亘輝」とかおもしろそうな話もたくさん聞けたが、ここでは割愛する。
明日を前にして、3年間一緒に練習してきた選手たちとの思い出話をする大西さん。笑い話をすればするほど、寂しさが際立つ。実際、この前日にひとりで運転しながらポロッと泣いてしまったらしい。
「変になったんかなー」
大西さんは照れくさそうに言っていたが、全然変じゃないです。それだけ選手と向き合ってきたってことです。かく言う僕も、上の写真を探すために3年前のフォルダを漁ってるだけでいろいろ思い出してちょっとセンチになってます。まぁ歳取ると涙もろくなりますから。
今回書ききれなかった選手たちのコメントや大西監督との車中トークの様子は、後日動画で公開予定ですので少々お待ち下さい。
優勝決定戦〜最後までまっすぐに〜
10月26日。いよいよリーグ最終戦の日がやって来た。この日は昨日の雨で中止になった試合も行われるため、ダブルヘッダー。1日2試合行われる。
1試合目の和歌山戦、2試合目のブルズ戦のどちらかでも勝てば優勝という圧倒的有利な状況だ。ただ、和歌山には今年の開幕戦から始まり、良いところでうまく勝てていない。
どうせ優勝するなら1試合目の和歌山に勝つぞ!という気持ちで選手たちは試合に挑んだ。
先発を務めるのは吉村樹(たつき)。たつきは今季加入した18歳のルーキーだが、今年の開幕戦、同点で迎えた9回表に、3年連続ホーム開幕戦の先発・亘輝からマウンドを託された男だ。
そんな期待のルーキーたつき、最終戦ビシッと頼むぜ!と思っていたが、先頭打者にフォアボールで出塁されてあっという間に初回から3失点。1回で交代となった。
幸先の悪いスタートを切ったシュライクス、たつきに代わってマウンドへ向かったのは中村拓。「上を目指すならストレートだけ投げんかい!」という藤江コーチの教えから、今シーズン全球ストレートで勝負している男、いや、漢だ。
彼は19歳のときに大学を辞めて以降、4年間鳶職の仕事を続けてきた。しかし、NPBへ行く夢を諦めきれず、仕事をやめてまでシュライクスにやってきた。
そういった気迫や覚悟がノッた球というのは重みが違うのだろう。彼のまっすぐは打たれない。いや、打たれてもなかなか決定打にならない。
「たくー!がんばれー!」
スタンドには、中村に声援を送るギャルの姿が見える。そのギャルが、ギリギリまでフェンスに顔を近づけて応援していた。
きっと、目に焼き付けようとしているのだ。夢を叶えるために1年だけマウンドへ戻ってきた漢の、最後の勇姿を。良い彼女じゃあないか(彼女かどうかは知らない)。
そんな彼女?の応援が効いたのか、中村はマウンドを降りる6回までを無失点で切り抜けた。最後まで漢らしいピッチングだったぜ中村拓。お疲れさまっした!
若百舌鳥(おれたち)の集大成
特別な許可をもらって、取材のためにベンチを出入りさせてもらっているのだが、ベンチというのは緊張感がずっと張り詰めている。
選手じゃない、ましてや野球素人の僕にとってはプレッシャーが強すぎる場所だ。
なので、ベンチに入るときは「いざ」という時と決めている。それ以外の時間は、俯瞰して試合が見られるスタンドにいることが多い。
野球は素人だけど、かれこれ3年シュライクスを見てきた。おかげさまで、なんとなく”潮の変わり目”というものがわかるようになってきた。そして、5回裏にその潮目が来た。
先頭打者の折下が初球を打った瞬間「ここしかないッ!」と猛ダッシュ。ベンチに着くとキャプテンの山田くんがヒットで出塁していて、ノーアウト1,3塁の大チャンスを迎えていた。
ここで打席には杉森。昨日話を聞いたときには「勝負強さが足りなかったので今年は60点。」と厳しい自己採点をしていたが、印象としてはそうでもない。
もともとスタメンではなかったが、けが人に代わって試合に出るようになり、そこで活躍してからはそのままスタメンに定着した。
おそらくパワプロだったら「チャンス○」をもっている慎太郎は、ここでもチャンスを逃さずセンター前にタイムリーヒット!チームに貴重な先制点をもたらす。
やっぱり勝負強いじゃん!そんな彼も今日でチームを去る。ありがとう慎太郎!お疲れさまでした!
ノーアウト1,3塁。元オシャレ番長の寿希也もタイムリーヒット!昨日いろいろ話聞いてたから、一層うれしいね!
まだまだ続く、ノーアウト1,2塁。元祖恥ずかしがり屋のかえちゃんがバントヒットで相手をかく乱、相手の守備が乱れているうちに3-3の同点に追いつく。
1アウト1,3塁。追加点と仮眠は取れるときに取っておけ。ここで打席に立つのは樋口公二郎。彼は四国のリーグに2年在籍し、今年シュライクスにやってきた選手だ。
樋口は、素人目に見てもめっちゃ打つという印象が強い。オープン戦からホームラン打つし、茨城APとの交流戦でもホームラン打ってた。めっちゃ打つなぁと調べてみたら、48試合中37試合に出場して打率.367だった。めっちゃ打つやん。
そんな樋口も、堺に来る前は不毛の時代を過ごしていた。四国にいた2年間はほとんど試合に出れず、何度も心が折れかけていたそうだ。それでも続けてこれたのは、応援してくれるファンの存在があったからだそうで。
独立リーグの選手がSNSをやることに関しては賛否両論あるが、堺シュライクスはめちゃくちゃ賛成派だ。応援してくれるファンの方に直接メッセージを伝える手段は多いほうが良い。
プレー以外でもアピールする場があるならじゃんじゃん使いんしゃい!と球団側は積極的にSNSの活用を促しているのだが、まぁなかなか定着しない。
そんな中でも樋口がSNSをうまく活用しているのは、やはりファンの大切さ、ありがたさを知っているからだろう。試合数日後に投稿された彼のツイートには、この3年間の思いが書かれているのでぜひ見ていただきたい。
今シーズンで退団します。
3年前に独立リーグに挑戦すると決めた日から振り返り、心境を綴りましたので、読んでいただけると幸いです。 https://t.co/eIkXw1UPeC pic.twitter.com/7224xc3fLn— 樋口 公二郎 Kojiro Higuchi (@kojiro_onovus) November 2, 2021
こんなイケイケ押せ押せの場面で今の樋口が打たないはずもなく、初球からライト方向へのタイムリーヒットを放つ。
続く大橋兄さんも初球からバチコーン打って3-5。あの頃は自信のなかったしょうごもしっかり打って1アウト満塁。
スタメンのうち8名が今日でシュライクスを去る。最後はみんなに打ってもらって気持ちよくシュライクスを巣立ってもらいたい。たしかにそう思っていたけど、ちょっと打ちすぎじゃない?
打者一巡の猛攻でこの回一挙6得点。3-6と逆転し、2年連続リーグ優勝へと大きく傾いた。
7回表のマウンドには河内山がいた。昨年ノーヒットノーランの偉業を達成した河内山だったが、今シーズンは肘の手術の影響で全く試合に出れず、約1年間試合から遠のいていた。
それでも腐らずトレーニングに励んでいた河内山。チームメイトからの信頼は厚く、「チームの中心は誰だった?」と投手陣に聞くと、皆が口を揃えて彼の名前を口にしていた。
河内山には何度も助けられた。僕がひとりでウロウロしていると話しかけてくれるし、昨年の優勝記念パーティの時なんかもスポンサーやファンの方々と積極的に交流していたし、「人として仕上がってるなぁ」と何度も感じていた。
退団後は、トレーニング機器の販売やジュニア世代の育成などの仕事をすることが決まっているそうだ。既に立派だけど、河内山ならもっと立派な社会人になると確信している。
先頭打者こそフォアボールで出塁を許したが、その後は3人でしっかりと切り、河内山は最後のマウンドを後にした。
続けてきた意義と価値
今日の試合はダブルヘッダー。球場を借りれる時間は決まっていて「1試合目は12時30分まで」という制限があった。その制限がベンチ裏をザワつかせる。
試合は7回裏、シュライクスの攻撃。時刻は12時過ぎ。時間的に9回まで無いことは見えていたが、この攻撃が終わって8回まではいくだろうという状況だった。
「最後は亘輝を出したい」
何事もなければ、この試合に勝ってシュライクスは優勝を決める。その最後のマウンドには、創成期からのエース・亘輝を立たせてやりたい。これが大西監督の思い描くシナリオだったと思う。
しかし、ここで思わぬ誤算が生じる。
7回裏、3-6と勝ち越していたシュライクスがまたもや猛攻を始めたのだ。前述した通り、多くの選手が今日でチームを去る。まるで「おれたちの集大成、見せつけたんで〜!」と言わんばかりの猛攻だ。
(もういいよ…十分見せてもらったよ集大成…)
淡々とブルペンで肩を作る亘輝。止まらない猛攻。盛り上がる野手陣。すぐに行けるよう、1カウントごとにブルペンに伝令する投手陣。2アウトになっても止まらない猛攻。気付けば3-10。十分すぎる追加点。不安げに肩を作り続ける亘輝。
「さすがにもういいんじゃないかな!?」
だれもがそう叫び出しそうになったところで攻撃が止む。時刻は12時25分。タイムリミット寸前で亘輝の出番がやってきた。ギリギリ間に合ったー!投手陣が自分のことのように嬉しそうにしている。
満を持してマウンドへ向かう亘輝。
亘輝と言えば、初年度から3年連続で開幕戦を任された投手だ。また、2年連続の最多勝投手や年間MVP獲得など、これまで数多くチームの勝利に貢献してきた。
なにより、「最後は亘輝を出したい」という思いが、ここ数分でビシビシと仲間たちから伝わってきた。
まさに創成期からチームの柱として活躍してきた亘輝も、今年で退団。野球もすっぱり辞めると宣言しており、今日が現役最後のマウンドとなる。
本当は昨年で辞めるつもりだった。しかし、周囲の後押しで今年も続けた。
正直、1年目2年目の活躍と比べてしまうと、今年は目を見張るものがなかった気がする。それでも彼は試合の前日、「いい経験をさせてもらいました。こんなにチームの軸として投げさせてくれたことには、本当に感謝しています。」と語ってくれた。後悔はない、ともはっきり言ってくれた。
チームのエースとして3年間、本っ当にお疲れさまでした!
そして。
12時36分。
センターフライで3アウト!
ゲームセット!!
堺シュライクス、2年連続のリーグ優勝だー!!!
モズと輪ゴムとアンダースロー
さて、優勝が決まったことだし、これはもうエンディングだろうという空気ですが、まだ終わりじゃありません。次の試合があるのです。いやぁ〜、穏やかな気持ちで迎えられるのはありがたいですね。
ホッとしているのは僕らだけではなかった。
「ホンマ優勝してくれてありがたいですわ〜」
ワタナベエンターテインメント所属のお笑い芸人「こゝろ」のお二人だ。彼らは、先日のバトスタデーに伴って開催された「MZ-1グランプリ」の初代チャンピオンで、イベント当日に体調不良で欠席となったために今回お越しいただいた。
優勝が決まった試合の後に始球式?っていうなんか変な空気だったけど、改めてこゝろのお二人も優勝おめでとうございます!
また、延期していたMZ-1グランプリの表彰式がこの日に行われた。バトルスタディーズの作者・なきぼくろさんは「直接お祝いしたい!」とこのためだけに大阪までやって来てくれた。しかもほぼ日帰りで。本当にありがとうございました!(写真左からボケの荒木さん、作者のなきぼくろさん、ツッコミの山出谷さん)
大西さんは前日に「今日で最後の選手は全員出してやりたい」と話していた。ということで、2試合目は今日で退団する選手が全員出ます。じゃんじゃん行きますよ。
先発は西澤宙良。
チーム加入時、「将来の夢は理学療法士」と言っていて、なかなかぶっ飛んだやつが入ってきたなという印象がある。しかし蓋を開けてみれば、おそらく今年一番チームの勝利に貢献した投手だった。
先発での登板数は14、勝利数は8と、どちらもチーム最多を記録。完全に今年の柱でした。西澤くん、お疲れさまでした!
※追記:西澤くんはドラフト1位で栃木ゴールデンブレーブスへの入団が決まりました!おめでとうございます!
西澤くんに代わって3回のマウンドへ上がるのは吉井稜央佑。
吉井くんは…なんだろ。可愛い顔してるなという印象。鹿系の顔、アルプスとか高い山に住んでる鹿系の顔です。あとは、実家が旅館らしいです。
これは完全に僕の失態なのですが、堺シュライクスに在籍していた30人の選手全員と話すことはできていません。どうしても歴が長かったり話しやすい選手の方に吸い寄せられてしまって。
独立リーグの性質上、1年でいなくなる選手は今後も多いはずなので、吉井くんのことを全く掘り下げられなかったこの反省を今後にいかしたいと思います。そのことに気付かせてくれてありがとう吉井くん。
吉井くんに代わって4回のマウンドへ上がるのは山本麗貴。
山本くんの印象?…そうですね、公式HPにプロフィールには質問コーナーがあるのですが、そこで「他の選手に負けないものは?」に対して「受験突破力」とありました。
彼は一橋大学という超頭の良い大学を卒業してますから、説得力が違いますね。初めて話すのに受け答えもしっかりとしていて、さすが一橋大学を突破しただけあるなという印象ですね、はい。
来年こそは全選手と絡むことをここに誓います。気付かせてくれてありがとう山本くん。
吉井くん山本くんと1回ごとに交代し、試合は5回表に突入していた。ここで交代のペースが上がる。5回からは1アウト交代だ。
まずは関口聡。
関口は3年目ですからね、良いエピソードありますよ。大西さんの焼肉屋「笑ぎゅう」でバイトしていた関口。ある日大西さんから「輪ゴムの箱空けてくれ」って頼まれたんですね。輪ゴムの箱ってのは、小学校のときによく見かけたこれです。
写真のように、左下の丸い点線部分だけ空けて使うじゃないですか。何を思ったのか関口は、その丸い点線を無視して箱をバリバリ破り取っちゃったんですよ。あ、こいつヤベー奴だなって思いましたね。
「5回は1アウトで投手を変える」と言っていたのですが、関口の対戦相手はよりにもよって初球打ち、ファーストゴロでアウト。あっけなく1球で終わってしまった。お、おつかれさまでした。
でも(でも?)僕は関口のことけっこう好きでしたよ。たしかにちょっと変わり者だったけど、一生懸命やってるのが伝わってきたし、なにより藤江コーチの(相当きついと噂の)鬼トレーニングを3年間やり抜くだけでも根性あると思います。3年間お疲れっした!!
関口に代わって今度は岸本敦貴。
彼も初年度から一緒に頑張ってきた3年目の選手。岸本の特徴は、長い腕から放られるアンダースロー。ただ、コントロールがあまり定まらずフォアボールを量産するため、「岸本が投げれば試合が長引く」という印象が強い。
たしかにコントロールは悪いが、それでも今シーズンの開幕前、藤江コーチに「今年の注目投手は?」と聞いたところ「岸本」と答えていた(あと関口)。関口もそうだが、藤江コーチの練習を3年間耐え抜くのは、それだけでも立派だ。何人もの選手が途中で辞めていくのを見ている。
そんな練習を3年間やってきた成果が最後の投球に現れた。岸本最後の投球は、相手打者のバットをへし折って打ち取って終わった。野球人生最後のマウンド、しかもアンダースローで相手のバットをへし折るなんて、めちゃくちゃかっこいいじゃないか。3年間お疲れさまでした!
岸本に代わって今度は毛利怜央。
彼は今年一年ケガで棒に振っていて、この日が今シーズン初の登板だった。リハビリとトレーニングの日々は辛かっただろう。それでも耐え抜いたから今日がある。そんな彼にベンチからもゲキが飛ぶ。毛利はそれに応えるように、ピッチャーゴロで打ち取り仕事を果たした。
「ありがとう毛利〜!」
「来年もよろしく〜!」
いや来年も居るんかい!!関口→岸本の流れで完全に騙されたわ。
1-1の同点で迎えた6回裏。
ノーアウト1,3塁の場面で打席には藤野恭平。早稲田大学、JR北海道、茨城APと経て、堺シュライクスを野球人生最後の場所と決めてやってきた。その覚悟を見せ、本日最初の打席にも関わらずセンターへの勝ち越しタイムリーヒットを放ち、遠路はるばる見に来ていたご両親にその勇姿を見せつけた。
その後シュライクスは逆転され、9回のマウンドには投手陣の裏番長こと久保。
昨日は競馬の話が多かったが、「今後は草野球もやらない。野球やるならガチがいいんで」と真面目なこともちゃんと語っていた。それだけ真剣に野球と向き合ってきたのだろう。
でもいつかまた、気持ちや時間に余裕ができたときにでも野球をやって、最後にシュライクスでプレーしたことを少しでも思い出してもらえたら嬉しい。
久保は最後のマウンドを無失点で切り抜けたが、チームは3−4と逆転を許したまま試合終了。
試合には負けてしまったが、今日で退団する選手は全員出れたのでめでたしめでたし、ということでよろしいでしょうか。よろしいですね。
以上、リーグ最終戦2試合を、退団する選手を中心にお届けしました。記事内で登場させられなかった赤城、糟谷、藤田に関しても現在製作中の動画に登場するので乞うご期待。
3年目を終えて
ホーム最終戦ということで、試合終了後にはスタンドのファンと集合写真を撮ったり、創設から3年間続けてきた5人の引退セレモニー的なものが開かれたりしました。
こうして、長い長い1日が終わろうとしていたが、最後に球団オーナーの松本祥太郎から選手へメッセージが送られた。そのメッセージの中には、球団オーナーとしての強い思いがあった。
「2年連続リーグ優勝はできましたが、創設3年目となった今年も、みなさんの中からNPBへ送り出すことは出来ませんでした。」
3年目こそはNPBへ選手を輩出したい。2021年シーズンが始まる前から、松本は度々この想いを口にしていた。少し厳しい表現かもしれないが、独立リーグをやるからにはNPBへ選手を送り出さないと意味がない。
1年目は「球団創設」という大きな話題があった。シーズン終了後の成績こそ最下位に終わったが、その結果が2年目のリーグ初優勝というドラマに結びついた。
そして3年目の今年。もちろん、2年連続リーグ優勝は選手たちの頑張ってきた結果で心からの拍手を送りたいが、”話題性”という意味では昨年のリーグ初優勝には及ばない。
堺シュライクスは「新球団としての鮮度」で売れる時期が終わり、目に見える結果が求められるフェーズへ来たように思う。
また、少し話は変わるが、今年のドラフト会議を松本と一緒に見ていたときのことだ。そこでは、茨城APや徳島ISの選手たちが育成で何人か指名されていた。
この2チームとは、今シーズンに交流戦を行っている。松本的には両チームの代表と仲も良いので嬉しい気持ちもあるが、当然複雑な気持ちもある。同じ独立リーグという立場から選手が選ばれているわけだから。嬉しいけど焦る、みたいな。
ただ、松本はここで焦るだけの男じゃない。こういう状況でこそ燃える男だ。来年こそはシュライクスもやってやりますよ、と。
「みなさんの活躍がもっと注目を集められるように、球団側としても今現在いろいろと改革しております。なので、来年こそはNPBへ行くという夢を、僕らと一緒に叶えましょう。」
2年連続リーグ優勝に喜んでいる暇はない。選手は20名退団し、さらには藤江コーチも退任する。さらっと言いましたが、すごく大事なことなのでもう一度言います。
藤江コーチが退任します!!!
そうなんですよ、藤江コーチが退任しちゃうんですよ!!!泣
これは寂しい、寂しすぎる。優勝後、藤江さんから選手とファンの皆様へコメントをいただきました。
4年目の選手探し、藤江コーチの後任問題、NPB輩出という野望。
まだまだ堺シュライクスには課題が山積みだ。でもこれは今に始まったことではない。最初の頃からなにかしら課題はずっとある。片付けても片付けても新しい課題は生まれる。
ただ、その過程で多くのファンやスポンサーを味方につけてきた。きっと皆様の支えがあれば、この先もなんとかなるんじゃないかと、楽観的に聞こえるかもしれないけど本気で思っている。
ということで、堺シュライクスは2022年シーズンに向けて既に始動しています!
来年こそはNPBに選手を輩出するぞ!そして、来年こそは毎年やってる夕方のドラフト会議でよく見る、あの歓喜の瞬間を見せるぞ!見たいぞ!ということで締めさせていただきます。
皆様、来シーズンも応援のほどよろしくお願い致します!
おしまい。